


インフルエンザワクチンの在庫ロスが避けられない理由はほかにもあります。インフルエンザワクチンの製造株(※成分構成を意味する医学用語。金融の株ではない)は、その年にどのタイプ(Aソ連型、A香港型、B型など)のインフルエンザがはやるのか、国立感染症研究所が検討し、検討結果を受けて厚生労働省が決定・通達しています。このように製造株が毎年変わるので、「今年は買いすぎてあまっちゃったから来年使おう」ということができないんです。余ったら廃棄するしかありません。
だったらワクチンが足りなくなった医療機関に売ればいいじゃないかと思うかもしれませんが、医療機関は医薬品を販売することが法律上できません。しかも、他の医薬品などと違い、インフルエンザワクチンの製造には時間がかかりますから、例えば、インフルエンザが当初の予測(インフルエンザワクチンの製造量も毎年、国によって決められています)に反して大流行し、在庫がなくなりそうだからと医薬品卸に頼んでも、すぐに納品されるという保障がないんです。だから医療機関は在庫ロスを覚悟で仕入れざるを得ないんですね。
私は、こうしたワクチンの特性をまったく考慮せず、自治体や医療機関すべてを委ねてしまっている国の姿勢にこそ問題があると考えています。
いま国は医療費を抑制しなければ医療保険がもたなくなるといって、医療費を削る政策を進めています。日本の医療保険は、病気になった場合にしか給付されず、インフルエンザワクチンのような予防接種、健康診断などのいわゆる「予防」は医療保険の給付対象外となっています。
でも考えてもごらんなさい、予防にお金をかけて病気にならないようにしたほうが、よっぽど医療費が節約できますよ。インフルエンザにかかったらそれこそ数千円の医療費が使われます。厚生労働省が一生懸命、医療費(診療報酬)を20円削って、30円削ってとやるよりも疾病予防を徹底する方が明らかに効率的ですよ。
ですから国が国策としてインフルエンザワクチンの集団接種を徹底する。児童であれば学校で集団接種をする。そうすれば個々の医療機関で在庫ロスが生じなくなりますし、不当な接種費用をとる医療機関もなくなる。今みたいに自治体によって、ワクチンの公定価格(公費で補助する金額と自己負担額)がバラバラだというおかしなこともなくなる。インフルエンザにかかる人が少なくなるので国民にもメリットがありますし、国が望んでいる医療費の削減も達成できるわけです。国がこうしたことをしないからいけないんですよ。
あるいは、赤字だ、赤字だといっている医療保険者(健保組合など)。医療保険者が被保険者を対象に会社などで集団接種をすればいいのではないでしょうか。被保険者の使う医療費が減れば保険財政も楽になるわけで、無駄な保養所を建てるよりもよっぽど意味があることだと私は思います。
[2008.1.16公開]

医師/簡野晃次
医療法人社団 友輝会 エルクリニック 理事長
医療法人社団 若草会 横須賀中央眼科クリニック 理事長
医療法人社団 スペクトラム会 東京血管外科クリニック CTO
―経歴―
昭和63年3月:日本医科大学卒業
昭和63年6月:日本医科大学付属病院形成外科入局
平成7年6月:西新井皮膚科形成外科院長就任
平成18年10月:医療法人社団友輝会エルクリニック理事長
平成19年4月:医療法人社団若草会横須賀中央眼科クリニック理事長
平成19年6月:医療法人社団スペクトラム会東京血管外科クリニックCTO